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理想的な試走を終えたキズナ、オルフェーヴルの前哨戦回顧

  • 2013年09月18日(水) 12時00分
 キズナ、オルフェーヴルとも理想的な試走を終えて凱旋門賞を迎えることになった。先週のこのコラムで記した、「慣れること」「試すこと」「本番におつりを残すこと」「好走すること」という前哨戦における命題を、2頭とも完璧にクリアしてくれたのだ。

 G2ニエユ賞(芝2400m)のパドックに登場したキズナ(牡3、父ディープインパクト)は、落ち着きはらった様子だった。レース後、グリーンチャンネルの電話インタビューに答えて下さった佐々木晶三調教師によると、ロンシャンの待機馬房に到着したキズナは驚くほどおとなしく、むしろ気合い不足を心配したそうだ。

 普段に比べて馬がおとなしくなる、というのは、海外遠征をした陣営から良く聞かれるコメントだ。滞在するシャンティーやニューマーケットの環境が、栗東や美浦よりも日頃の放牧先に似ており、まだレースは遠いと勘違いすることで気持ちが緩んで、中にはボケてしまう馬も出てしまうのだ。

 ロンシャンへ着いた段階で、キズナ自身が間もなくレースと悟っていたかどうかは不明だが、もしもメンタル面でのスイッチを自身で自在に操っているのだとしたら、恐ろしい馬である。

 一方、フランス到着から2週間しか経っておらず、陣営からもここは85%の仕上がりとのコメントが出ていたように、フィジカル面でのチューニングが「前哨戦仕様」であったことは間違いない。

 この日のロンシャンの馬場発表はSouple(=Soft=重馬場)。2歳11月の黄菊賞、2歳12月のラジオNIKKEI賞で稍重は経験していたが、重や不良では走ったことがないキズナにとっては、実戦で走るこれまでで最も湿った馬場となった。

 1番人気に推されたフリントシャー(牡3、父ダンシリ)の陣営がラビットを用意したため、前半の流れはこの日行われた3つの前哨戦の中ではまともなものになったが、それでも日本の競馬に比べると遥かに緩いペースとなった中、キズナはフリントシャーを3馬身ほど前に見る7〜8番手で競馬を進めた。

 坂の下りから少しペースアップした中、隊列に大きな変化がないまま直線へ向くと、道中2番手に付けていたG1仏ダービー(芝2100m)5着馬シカープール(牡3、父ドクターフォング)が先頭へ。残り400m標識の手前でフリントシャーの鞍上M・ギヨンの手が大きく動いたのをはじめ、各馬一斉に追い出しにかかった中、最後まで動かなかったのが、直線に向くと外に持ち出したキズナの鞍上・武豊の手綱だった。残り150m付近で道中好位にいたG1英ダービー(芝12F10y)5着馬オコヴァンゴ(牡3、父モンスン)が先頭に立つと、すかさずそこへ襲い掛かったのが、残り300m付近からようやく追い出しにかかったキズナで、残り100m付近で先頭へ。その後、エンジンの掛かりが遅かったG1英ダービー勝ち馬ルーラーオヴザワールド(牡3、父ガリレオ)が出し抜けを食らわすかのように内から伸びてきたが、これを短頭差凌いだキズナの優勝となった。

 この時筆者は、グリーンチャンネルのスタジオにて現地から送られてくる映像を見ていたのだが、画面ではルーラーオヴザワールドの方が前に出ているように見え、耳で聴いていた英語放送もルーラーオヴザワールドが勝ったかのようなコメントしていたため、その後しばらく司会の大澤幹朗さんともども「キズナ2着」を前提とした放送をしてしまった。ここに謹んでお詫び申し上げたい。

 正直に言えば2着でも大満足だったのだが、1着の方が良いことは言うまでも無く、接戦を短頭差でモノにしたキズナが「持ってる」馬であることも確認出来たことは嬉しい。

 何よりの収穫は、重馬場のロンシャンを難なくこなしたことだ。実質的に競馬をしたのは上がりの300mぐらいで、ダメージも最小限だったと思われ、本番へ向けて視界が開けたことは間違いない。

 上位人気は、春のクラシックには乗れず、春以降に台頭した新興勢力が占めていたが、フリントシャー4着、トリプルスレト(牡3、父モンスン)8着、ヴァンクーヴェリテ(牡3、父ダンシリ)9着と、軒並み敗退。2着ルーラーオヴザワールド、3着オコヴァンゴと、春の既成勢力が意地を見せた形となった。

 負けたとはいえ、本番でも侮れないなと思わせる競馬をしたのがルーラーオヴザワールドだ。不器用なタイプで、頭数の多くなる本番では如何に馬群をさばくかが課題となるが、馬力の勝負になった場合は要注意だ。ジョセフ・オブライエンよりはライアン・ムーアの方が手が合っていそうなだけに、本番もムーア騎乗となればなおさら警戒すべきだろう。

 G2フォワ賞(芝2400m)に出走したオルフェーヴル(牡5、父ステイゴールド)にとって最大の不安は、3月末のG2大阪杯(芝2000m)以来5カ月半の休み明けで、果してどこまで調子が戻っているかにあった。だが、レース3日前にド迫力の追い切りを披露し、仕上がり面での不安を払拭。更に、能力的に見てオルフェーヴルに対抗しうる唯一の敵と見られていたキャメロット(牡4、父モンジュー)が、馬場悪化で出走を回避。オルフェーヴルの独壇場になるというのが事前の予測だったが、まさにその通りの結果となったのがG2フォワ賞だった。

 ちなみにキャメロットは、同じ15日にカラ競馬場で、競馬開催終了後にレースコース・ギャロップを敢行。10Fから動き出し、直線に向くと先行していた同厩のキングダム(牡3、父モンジュー)に並びかけ、残り1Fから追われる一気に抜け出してフィニッシュ。管理するA・オブライエン師は、馬場が悪くならなければという条件付きで、次走は凱旋門賞に行くとコメントしている。

 典型的な逃げ馬が居らず、キズナの帯同馬として渡仏中のステラウインド(牡4、父ゼンノロブロイ)がハナを切ったが、前半の流れは超の付くスローペースとなった。そんな中、内埒沿いの3番手でピタリと折り合ったのがオルフェーヴルだ。前半幾度か頭を上げる仕草を見せた昨年に比べて、格段の落ち着きようである。

 直線残り400m付近でステラウインドのスリップストリームから抜けだし1頭分外に持ち出したオルフェーヴル。残り300m付近で馬なりのままステラウインドの外に馬体を併せ、そこから鞍上C・スミヨンの手が軽く動くと、瞬時にして後続との差を広げ3馬身差の快勝。追われた際の反応も、昨年のこのレースより遥かに良く、こちらも競馬をしたのは最後の300m程度でダメージは皆無のはずだ。

 この結果を受け、ブックメーカー各社はオルフェーヴルを、凱旋門賞へ向けた前売りでオッズ3.5倍〜4.5倍の1番人気に支持。同じく9月15日に行われたG1ヴェルメイユ賞(芝2400m)を制し、デビューから継続している連勝を4に伸ばしたトレヴ(牝3、父モティヴェイター)が4.5倍〜5.0倍のオッズで2番人気。9月1日にG1バーデン大賞(芝2400m)を含めて今季4戦4勝のノヴェリスト(牡4、父モンスン)がオッズ5.5倍〜7.5倍で3番手評価。これに続く4番手評価が、オッズ6.0倍から9.0倍のキズナとなっている。

 天才・武豊が、オルフェーヴルを負かすためにどんな騎乗をするかが、10月6日のG1凱旋門賞における大きな見どころとなりそうだ。

 キズナもオルフェーヴルも、本番まで無事に過ごしてくれることを祈るばかりである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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