スマートフォン版へ

早熟かつ晩成

  • 2017年01月28日(土) 12時00分


 稀勢の里が今年の初場所で初優勝し、日本出身力士としては3代目若乃花以来19年ぶりの横綱昇進を果たした。2003年初場所の貴乃花を最後に日本出身の横綱不在の時代がつづいていたが、14年ぶりに復活する。

 稀勢の里は中学卒業後の02年春場所で初土俵を踏み、2年後、貴乃花に次ぐ史上2番目の若さ(18歳3カ月)で幕内に昇進するなど早くから期待されていた。11年に大関となり、たびたび優勝のチャンスを逃しながら、新入幕から所要73場所という史上2番目の遅さで初優勝を遂げた。新大関から所要31場所の初優勝は昭和以降では最も遅い。

 早熟だったのに、晩成。

 そんな稀勢の里は、自身の姿をアドマイヤコジーンに重ねたことがあったという。

 アドマイヤコジーンは、旧3歳だった1998年にデビューし、2戦目で初勝利を挙げた。その後、3連勝で朝日杯3歳ステークス(現朝日杯フューチュリティステークス)を制し、旧3歳王者となった。

 しかし、翌99年1月に骨折し、長期休養に入ると、1年7カ月ぶりの実戦となった00年7月のUHB杯から翌01年7月の函館スプリントステークスまで12連敗を喫する。

 そこで終わらなかったのがこの馬のすごいところだ。半年ほどの休養を経て臨んだ02年1月の東京新聞杯を10番人気で勝つと、次走の阪急杯も優勝。つづく高松宮記念こそ2着に敗れるも、6月の安田記念を制し、3年半ぶりのGI制覇を遂げた。秋のスプリンターズステークスで2着、ラストランとなった香港マイルで4着と最後まで能力の高さを見せた。

 翌03年から種牡馬となり、初年度産駒のアストンマーチャンが07年、5世代目の産駒であるスノードラゴンが14年のスプリンターズステークスを制覇。力士だとしたら、早熟かつ晩成の横綱として相撲を取り切り、親方としても強い弟子を世に送り出したと言える。

 早熟か、晩成かどちらかの競走馬ならたくさんいるが、早熟かつ晩成、それも、稀勢の里と同じく、大きなところを勝てない時期のあった馬となると、アドマイヤコジーンのほかに、どんな馬がいるだろう。

 グラスワンダーは、97年の朝日杯以来1年ぶりの勝利が旧4歳時、98年の有馬記念だったので、近いタイプか。翌99年の宝塚記念と有馬記念も勝ち、グランプリ3連覇という偉業を達成したのだから、横綱在位はアドマイヤコジーンより長かったと言える。

 デビューから無傷の3連勝で01年の朝日杯を勝ったアドマイヤドンは、翌02年11月のJBCクラシックでダート路線に転向してから再度花ひらいた。

 ドリームジャーニーは、06年の朝日杯を勝ってから、次のGI勝利となる09年の宝塚記念まで2年半を要しているが、この馬は早い時期からコンスタントに強さを発揮していたので、稀勢の里タイプではない。

 ロゴタイプはどうか。12年に2歳王者になり、13年の皐月賞を制覇。その後はGIIやGIIIでも善戦止まりだったのに、16年の安田記念を制し、3年ぶりの勝利をGI制覇で飾った。マイル界の絶対王者として君臨していたモーリスを負かしての勝利だったので、横綱に一発昇進するだけの価値はあった。いや、この馬はクラシックを勝っているので、安田記念で昇進したわけではなく、若くして横綱になったが勝てない時期がつづき、3年ぶりに本場所で優勝した、といったところか。

 早熟で、勝てない時期を経て、晩成した競走馬として思い浮かぶのは、横綱ではなく大関かもしれないが、ヤマニングローバルだ。

 89年、デビューから3連勝でデイリー杯3歳ステークスを勝ち、主戦の武豊騎手に翌春のダービー制覇を意識させた。しかし、骨折のため長期休養に入り、1年以上経った91年1月、骨を固定するボルトが入ったまま洛陽ステークスで復帰し、4着。そこを含め、途中にダートで2戦するなど試行錯誤しながら9連敗したが、同年11月、横山典弘騎手を背にアルゼンチン共和国杯を制し、2年ぶりの勝利をおさめた。単勝5番人気の1430円。そこには多くの応援票も含まれていたことは間違いない。ゴールしたときの感動は、今も私の胸に残っている。

 せっかくのいい話が馬券自慢になってしまうが、2着に6番人気のリアルボーイが来て1万2280円ついた馬連を、私は獲った。だから感動したわけではもちろんなく、ヤマニングローバルを信じて総流しにしたら当たっただけだ。

 今週金曜日、1月27日に明治神宮で行われた奉納土俵入りに入り切れないほどのファンが集まり、トップニュースで報じられたことが、稀勢の里を信じて感動した人がたくさんいることを示している。

 早熟かつ晩成型になってほしいし、なりそうな馬がいる。2歳時には世代ナンバーワンの呼び声もあったハートレーだ。たとえ時間はかかろうとも、また輝きを見せて、私たちの気持ちを揺さぶってほしい。

このコラムの通知を受け取りますか?

お気に入り

このコラムの通知を受け取りますか?

お気に入り

すでにお気に入りに登録しています。

登録済

作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング