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【AED普及活動】アスリートの「命と安全」を考える ―プロライフセーバー飯沼誠司さん 特別対談(後編)

  • 2017年06月21日(水) 18時01分
with 佑

▲AEDの重要性を語る、ASJ(アスリートセーブジャパン)の代表・飯沼誠司さん


「『いのち』を守る、『いのち』を大切にする心を育む」をスローガンに、AEDの講習会や熊本地震の支援活動を通じてスポーツの素晴らしさを伝え、そのための安全な環境作りを提唱しているアスリートセーブジャパン(以下、ASJ)。賛同アスリート総勢38名が、様々なイベントで活躍中です。そのASJの代表であり、日本を代表するライフセーバー・飯沼誠司氏が、熊本支援イベントの記事を目にしたことをきっかけに、今回の対談が実現。後編の今回は「AEDを使って救える命がある」という信念、競馬の落馬事故のリスクなど、業界の垣根を越えて語り合います。(取材・構成:不破由妃子)


(前回のつづき)

AEDを使うだけで救命率は2倍、心臓マッサージをすればさらに2倍


佑介 AEDの普及活動の一環として、子供たちを対象に「いのちの教室」という講習会を開いてらっしゃるということですが、具体的にはどういった内容なのですか?

飯沼 僕らの活動に賛同いただいているアスリートの方をお招きして、一緒にスポーツを楽しんだあと、AEDと心臓マッサージの勉強をするというのが主な内容です。2015年の9月から始めたのですが、これまでにも朝日健太郎さん(ビーチバレーボール)、安永聡太郎さん(サッカー)、原裕美子さん(マラソン)、西山将士さん(柔道)、植木隆人さん(車椅子バスケ)などに講師としてご参加いただきました。7月の「いのちの教室」には、競泳の岩崎恭子さんをお招きする予定です。AEDを知ってもらうことはもちろんですが、子供たちにとっては金メダリストに水泳を教えてもらえる貴重な機会になるはずです。

佑介 錚々たるメンバーですね!

飯沼 ありがとうございます。僕も小さい頃、オリンピアンやアスリートにすごく憧れを持っていたのでわかるんですが、アスリートの言葉ってすごく心に残るんですよね。子供たちにとって、とても訴求力が高い存在なので、ASJと一緒に彼らが訴えていってくれることで、未来のスポーツ環境は必ず変わってくると思っています。

佑介 AEDの存在や使い方を知っている人はまだまだ多くないとおっしゃっていましたものね。

飯沼 そうなんですよ。サッカーやリトルリーグの現場にもAEDがなかったり、あっても使える人がいなかったり。救急車を呼んでも、到着までの全国平均時間は8分を超えていますからね。これからは、その場にいる人がどれだけ動けるかというのがテーマになってくると思うんです。

佑介 実際、子供たちでも使えるものなんですか?

飯沼 はい。基本的には、AEDのパッドを貼るだけで、あとは機械が解析してくれますから。そういった基本的なことが、まだまだ浸透していないんですよね。すべてを知っていなければ使えない機械では全然なくて、「こんなに簡単だったんだ!」という感想が圧倒的に多いです。それでいて、AEDを使うだけで救命率は2倍、心臓マッサージをすればさらに2倍。講習会では、「何もせずに救急隊員を待つより、救命率が4倍にもなるんだよ」という話をしています。

佑介 子供たちにそういった意識が根付けば、確かにこれからのスポーツ環境が変わってくるかもしれませんね。

飯沼 はい、そう思っています。実践以前に、「自分にもできることがある、救える命がある」ということを考えるきっかけになってくれたらと。スポーツをするなかで、そういった意識を根付かせることも、僕らのひとつのミッションかなと思っているので。

with 佑

▲「子供たちにもAEDを使う意識が根付けば、確かにこれからのスポーツ環境が変わってくるかもしれませんね」


ジョッキー界のライフセーバー的存在になってほしい


佑介 僕たちの場合、ジョッキーがジョッキーを助けるという場面はなかなかないですが、頻度は少ないとはいえ、落馬で命を落としたジョッキーもいるので、その重要性はわかります。

飯沼 競馬では、普段の調教環境というのはどういうものなんですか? 僕らはどうしても華やかな部分しか知らないので。

佑介 競馬場より少しサイズの小さいトラックで馬を走らせています。ものすごい頭数なので、危険なシーンは多々ありますね。

飯沼 安全管理はきちんとされているんですか?

佑介 まだまだ課題はあると思いますが、救急車は常に待機しています。

with 佑

▲レース開催日の競馬場には、万が一の事態に備えて救急車が待機している (C)netkeiba


飯沼 それはすごいですね! ほかのスポーツでは、なかなかそうはいかない。実際に調教やレースで騎乗されていて、かなり危険な競技だと感じますか?

佑介 事故の頻度は高くありませんが、やはりレース中はかなりのスピードで走っているので、一度事故が起きると、どうしてもケガの度合いは大きくなりがちですね。キャリアのあるジョッキーでは、鎖骨を折ったことがない人を探すほうが難しいくらい。

飯沼 そうなんですね。僕も以前、競馬場に通っていた時期がありますので(笑)、何となくはわかりますが…、それは相当なリスクですね。マラソンや水泳などとは、またちょっと違ったリスクというか。

佑介 そうですね。ただ、心臓系のトラブルは、馬に起きることが多いです。馬自体がアスリートですから。

飯沼 なるほど。そういったアクシデントは、大々的に報じられることはないですものね。そうなってしまったら、もうどうしようもないんですか?

佑介 完全に心臓麻痺の状態になってしまうパターンもありますし、心房細動などは割と頻繁に起きています。だから、競馬に関わる人間としては、馬にもAEDが使えればいいなと思いますけどね。

飯沼 それはいいアイデアですね! 先ほどおっしゃっていたように、ジョッキーがジョッキーを助ける場面は少ないとは思いますが、どんな状況であっても、知識があれば行動に移せる。だから、様々なフィールドでライフセービング的な役割を果たせる人材を増やしていきたいという気持ちがあります。藤岡さんにはぜひ、ジョッキー界のライフセーバー的存在になっていただき、「命と安全」の大切さを子供たちに伝えていってほしいです。

佑介 僕にできることがあればぜひ。ジョッキーを目指す子供たちが増えたらいいなという思いはずっとありました。やはり、目指す人間が多くないと、その競技全体の裾野が広がっていかないと思うので。そのためにも、「安心・安全」な環境作りは大事だと思うので、微力ではありますが、何かお手伝いができればと思っています。

with 佑

▲握手を交わす飯沼誠司さんと藤岡佑介騎手


(了)



飯沼 誠司(いいぬま せいじ)


1974年生まれ、早稲田大学大学院卒。日本人初のワールドシリーズとプロ契約を成し遂げたライフセーバー、ウォーターマン。 国内、外におけるライフセーバーの知名度・地位向上や次世代ライフセーバーの育成指導を行う。2015年にアスリートセーブジャパンを設立し、東京オリンピック・パラリンピック事業及びCSR推進活動の一環として全国の各小中学校を回り、「スポーツ中の突然死ゼロ」を目標に掲げ、AEDの使用方法や心肺蘇生を授業に導入した「いのちの教室」の活動に邁進する。

【主な競技歴と経歴】
1997〜2001年 ライフセービング全日本選手権5連覇
2006年 「館山サーフクラブ」を設立
2010年 ライフセービング世界大会準優勝 同年ライフセーバーオブザイヤー受賞
2012/2014年 ライフセービングユース日本代表監督
2014/2016年 ライフセービング日本代表監督
2015年 一般社団法人ATHLETE SAVE JAPAN(アスリートセーブジャパン)設立(代表理事)
2016年 一般財団法人日本AED財団理事
2017年 国立大学法人鹿屋体育大学オリンピック・パラリンピック戦略アドバイザー就任

千葉県館山市スポーツ親善大使
妻はタレントの中山エミリ

【メディア出演】
●TV
「トップランナー」NHK教育
「ジャンクSPORTS」CX
「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」NTV
「踊る!さんま御殿!!」NTV
「SMAP×SMAP」CX
「王様のブランチ」TBS
「ザ・ジャスト」TBS
「中居正広の金曜日のスマたち」TBS
ほか

●ドラマ
「天才テレビくんMAX」NHK
「海猿」CX
「功名が辻」NHK大河ドラマ
「相棒5」EX
ほか

●映画
2001年「ウォーターボーイズ」「ハッシュ!」
2004年「海猿(UMIZARU)」
2005年「しあわせなら手をたたこう」「バッシュメント」

●著書
「水泳上達BOOK」(盛美堂出版社)
「パーフェクト スイミング ブック」(ベースボール・マガジン社)
「飯沼誠司式 筋肉トレーニングBOOK」(コスミック出版)
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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利を挙げた。

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