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【座談会】第2回『書き手にも読み手にも必要!? 競馬界の“忖度問題”』――「競馬メディアのあり方」を問う

  • 2017年06月26日(月) 12時01分
おじゃ馬します!

▲左から吉岡哲哉(競馬ブック)、柏木集保(日刊競馬)、赤見千尋、福永祐一(JRA)、野元賢一(日経新聞)


関係者は必ずしも本音を語れず、取材陣は突っ込んだ質問を避ける。複雑な難しさがついてまわる競馬取材の現場―― 「競馬メディアのあり方」を騎手、トラックマン、評論家が一堂に会して徹底討論するこの企画。第2回は、いま話題の“忖度問題”について。制限のある中で書き手はいかに真意を伝え、読み手はどう真意を読み取ったらいいのか。

出演:福永祐一(JRA)・柏木集保(日刊競馬)・野元賢一(日経新聞)・吉岡哲哉(競馬ブック)、司会:赤見千尋

(構成:不破由妃子)



(前回のつづき)

今の競馬界、ファンも記者も“忖度する能力”が必要


柏木 競馬ブックは、いまや機関紙のような存在だけど、関係者からクレームってあるの?

福永 僕も知りたい(笑)。どんな類のクレームがきますか?

吉岡 やっぱり一番多いのは、レース後のインタビューにまつわるジョッキーとの問題ですね。ジョッキーという職業はやはり特殊で、ほかのスポーツとは違い、「お前は馬に乗ったことがないからわからないだろ?」と言われてしまえば、その時点で話が終わってしまう。それでも上手い聞き出し方をする記者もいるんですが、最初にちょっとポイントを間違ってしまうと、全然方向性の違うコメントが返ってきてしまうんですよね。そのあたりでモメることが多いです。

赤見 やはりそこなんですね。福永さんも、実際に気になることがありますか?

福永 日刊紙では、たまに言っていないことが記事になっていたりすることもあって、それはちょっと困るんですけど、僕は以前ほど目くじらを立てなくなりましたね。気を付けて発言するように心掛けていますし。でもたまに、馬主さんがそのコメントを見て腹を立てて、「もうあいつは乗せない」というような話も聞きますけどね。

野元 レース後の談話もそうですが、レース前はどうですか?「本当はちょっとデキが…」というケースでは、流行りの言葉でいうと、忖度してほしいというか。

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▲野元「レース後の談話もレース前も、流行りの言葉でいうと“忖度”してほしいというか」


赤見 ああ、ファンの方に。

福永 いやいや、記者の方にですよね?

野元 まぁ、どちらもなんですけど。記者は記者で忖度するし、読者にも忖度してもらう。そのためには、“ああ、本当はこういうことなのかな”という想像をさせるというか、あくまで記者自身が書いたというスタンスで、それとなく読者に忖度してもらえるような技術というものが求められるような気がします。

福永 ファンにはものすごく申し訳ないことなんですが、たとえば僕が調教に乗って、動きがあんまり良くないなと思ったときに、「今日はちょっと馬場が悪くて…」とか、「一度使ったら良くなりそうだ」とか、どこか遠回しな言い方をしているときは、「あ、これはあんまり調子が良くないんだな」とか……

野元 忖度してくださいと(笑)。

福永 ファンにも記者の方にも本当に申し訳ないことなんですけどね。

野元 でも、今の競馬界は、お互いにそういう能力がないと成り立たない世界になってきたと思います。

吉岡 確かに、書き手にも本音を滲ませる技術が必要かもしれない。福永さんが最初におっしゃったように、結局、競馬界のパワーバランスが変わっちゃったから。昔は調教師が一番力を持っていて、馬主さんに何かを言われても「自分の言うことを信じてください」とキッパリと言えたけど、今は逆でしょ?

福永 そうですね。でも、普通に考えれば、オーナーより調教師のほうが力を持っていた昔のほうが“いびつ”だったのかもしれませんよ。

野元 そういう面は確かにあるんですけど、一方でオーナーにもいろいろな方がいて、大手生産者系のようなプロフェッショナルなオーナーもいれば、本当に趣味で競馬を楽しんでいる方もいる。ただ、今はプロフェッショナルなオーナーの全盛時代ですから。

吉岡 結局、発信する側のすべてが、ファンに対してではなく、その後ろに向けて発信しているから、当たり障りのないコメントが多くなってしまうんですよね。だって、今はジョッキーを決めるのも馬主さんでしょ? そういう仕組みのなかで情報を発信するというのは、すごく難しいんですよね。

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▲吉岡「発信する側のすべてが、ファンに対してではなく、その後ろに向けて発信しているから、当たり障りのないコメントが多くなってしまう」


当たり障りのない記事、一番の被害者は競馬ファン


福永 僕たちは仕事上、オーナーからの依頼がないと成り立たないわけで、そこに配慮したコメントをすることはわかるんですけど、やはりメディア側もそこに気を遣うものですか?

吉岡 自分のなかでは気を遣っているつもりですけどね。

柏木 発表する場所にもよるよね。

赤見 ああ、それはありますね。

柏木 僕なんか、たまに過激なことを発信するけど、逆にオーナーたちのグループに言われるの、「もっとちゃんと言えよ」って。

赤見 柏木さんは、netkeibaでレース回顧を書いてらっしゃいますものね。

福永 いつも拝読しています。

柏木 ホントに!?

赤見 検量室前の雰囲気などを見てらっしゃらないのに、ジョッキーや関係者の気持ちをすごくよくわかってらっしゃるなって、いつも思ってます。

柏木 本当は野元さんのように、現場に行かなくちゃいけないんだけどね。ただ、ファンに伝える立場であると同時に、僕にはファン目線というものがものすごく必要で。ファン目線ということでいえば、私はベテランなので、周りの記者を見ていれば何を考えているのかわかるという。

福永 ファンが疑問に思うことに対して、解答する立場、ということですよね。

柏木 そうそう。その思いに少しは応えたい。全面的に…というのは絶対に無理ですけどね。

赤見 批判的なことを書くのは難しくないですか?

柏木 ときどき個人攻撃のような記事を見るけど、ああいうのはまずいよね。

吉岡 褒めるのは簡単なんですけどねぇ。“その逆”をどう表現するかという難しさは確かにあります。ジョッキー批判にならないようにオブラートに包みながらも、「あんまり上手に乗ってなかったね」という含みを持たせつつ……

野元 忖度してください、ということで(笑)。

福永 中傷にならなければいいと思うんですよ。騎乗ミスに対する批判は、プロである以上、甘んじて受け入れるべきだと思っていますから。でも実際に、正当な批判が書けないというのは、現場の責任も大きいと思うんですよね。さっきも話に出ましたけど、批判的なことを書いたことで取材拒否に遭えば、どうしたって書きづらくなるし。たとえば、それが的外れな批判だとしたら、「いやいや、そうじゃなくてね」と話をするべきだと思う。本当のことを伝えてもらうべき立場の方に理解してほしいと思うなら、そうあるべきだと思うんですよね。

おじゃ馬します!

▲福永「騎乗ミスに対する批判は、プロである以上甘んじて受け入れるべき。正当な批判が書けないというのは、現場の責任も大きい」


野元 現場の方にそうおっしゃっていただけるのは、誠に意義があることだと思います。

赤見 そうですね。

福永 なぜ日本競馬が世界でも突出した馬券の売り上げがあるのかといえば、情報量が多いからだと思うんです。情報が少なかったら、こんなに売り上げが上がるとは思えない。その売り上げから賞金が出て、競馬が成り立っているわけですから、調教師と騎手には情報を提供する義務があると思うし、それを拒否するというのなら、そういう人間は競馬に介在すべきではないと自分は考えます。さっきもいいましたが、その情報を忖度してもらわなければいけないのは、本当に申し訳ないんですが。

柏木 取材を受ける側にしても書き手にしても、やっぱり問題はそこだよね。簡単に解決できることではないけれど、実際にファンが一番被害を受けていて、当たり障りのないどうでもいいコメントや記事をずっと読まされているわけだからね。

(次回へつづく)

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東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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