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オマワリサンが逃げた

  • 2017年09月23日(土) 12時00分


 Stalking the favorite,fired on stretch.
 本命馬について行き、直線で弾けた。

 先日のセントライト記念でミッキースワローが見せたレースを英文の短評にすると、こんなところか。

 20年近く前、アメリカ西海岸のサンタアニタパーク競馬場で手にしたレーシングプログラムの寸評にも、同様の表現があった。「stalking」は「stalk(ストーク)」という動詞の進行形だ。他動詞としてのストークの意味は「〜に忍び寄る、そっと〜のあとをつける」というもの。そう、この単語から派生したのが「ストーカー」である。

 日本ではストーカー規制法が改正され、ラインなどのSNSで執拗にメッセージを送りつけたり、乱暴な言動をするなどしても取締りの対象となる。違反した者には、警察が電話などで口頭警告を発し、従わないと、警察署に任意で出頭させて事情聴取を行い、書面警告、逮捕、刑事罰と進んでいく。ネット社会となった今は、犯人が証拠を消さないようあえて泳がせ、共犯者もろとも一網打尽にするケースもあるようだ。

 といったことを書いているうちに、オマワリサンという馬がいたことを思い出した。JRA時代は、ユニークな馬名をつけることで知られる小田切有一オーナーが所有していた。洒落になっているのか、ならないのか、オマワリサンの初勝利は逃げ切り勝ちだった。リプレイを見ると、実況は中野雷太アナが担当したようだ。

「内からオマワリサンが飛び出して行きました(略)オマワリサンが逃げる展開(略)逃げますオマワリサン(略)逃げる逃げるオマワリサン、リードは3馬身(略)オマワリサン逃げ切ってゴールイン!」

 オマワリサンに関する部分だけを抽出すると、こんな感じである。2011年4月23日、東京芝1600メートルで行われた3歳未勝利戦。鞍上は三浦皇成騎手だった。東日本大震災の翌月に、こんなふうにみなの気持ちをほぐし、元気づけるシーンがあったのだ。

 オマワリサンは、翌2012年4月22日の浄土平特別で2勝目を挙げた。好位3番手からの勝利だったが、「オマワリサン、前を捕まえた」といった実況は(個人的には残念ながら)なかった。次走、5月13日の赤倉特別でもオマワリサンは勝利をおさめる。このときも、声からして、実況は初勝利と同じ中野アナのようだ。

「さらに外から10番のオマワリサン(略)10番のオマワリサン、差を詰めての2番手(略)10番オマワリサン、ピタッと並んで600を切りました(略)さあ今度はオマワリサンが先頭に替わった(略)オマワリサン突き放しにかかる(略)抜けた、完全に抜けたオマワリサン(略)オマワリサン勝ちました」

 馬名がどんなものであれ実況のトーンは変わらない、という確たるものが、中野アナの落ちついた実況から感じられる。あらためて、さすがだな、と思った。対する私は、こうして実況のダイジェストを書くとき、何度も(略)を(笑)と書き間違えそうになった。

 オマワリサンは、2013年の千里山特別も勝ち、中央で4勝を挙げて準オープンまで出世した。翌14年、地方の佐賀に移籍し、11月に韓国岳賞を勝って、通算5勝目をマークした。オマワリサンは強かった。何より、7歳春まで、通算45戦したオマワリサンは、頑張った。

 そんなオマワリサンの仲間はいないかと、当サイトとジェイビスサーチで馬名を調べてみた。ケイサツカンもソウサカンもいなかったが、ポリスマンはいた。1985年に地方の新潟で3戦し、すべて着外に終わっている。驚いたことに、デカもいた。小田切有一氏の子息、小田切光氏の所有馬だ。昨年7月の2歳新馬戦でデビューし、未勝利のまま、今年の6月か7月に佐賀に移籍した。

 フジンケイカンはどうか。いない。フケイサンは、なんと、いた。牝馬だから「婦警さん」で間違いないだろう。2012年と13年、園田、姫路、福山などで28戦し、未勝利だったが、2着2回、3着2回という成績だった。

 さて――。

 このところ、スポーツ誌の秋競馬特集の取材で、大牧場の実質的経営者、GIを何勝もしている調教師、騎手など、関係者のインタビューがつづいている。取材の合間、中山競馬場で、地方競馬で30頭以上の競走馬を所有しながら、毎年相馬野馬追に出ているというオーナーに声をかけてもらった。いつも本稿を読んでくれているようだ。南相馬に行く楽しみが、またひとつ増えた。

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作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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