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モズカッチャンの故郷、目黒牧場

  • 2017年11月22日(水) 18時00分
目黒牧場

目黒牧場全景



日高の中小牧場に大きな希望と励みになったG1制覇


 去る11月12日、京都のエリザベス女王杯は、5番人気の3歳馬モズカッチャンが、並みいる強豪を抑え、初のG1タイトルを手中にした。鞍上のミルコ・デムーロ騎手の馬を動かす技術の高さを改めて見せつけられたようなレースであった。

 その様子を京都競馬場のスタンドから見守っていたのが、生産者の目黒牧場、目黒忠法(ただのり)さん(59歳)である。「未だにちょっと信じられないというか、現実の出来事ではないような気がしてならないんですよ」と笑顔を見せる。「馬主さんたちと一緒にいたんです。で、私たちの場所はゴール板から少し手前の位置だったので、混戦になってクロコスミアとかミッキークイーンも一緒に並ぶようにして入線したので、最初は勝ったかどうか分かりませんでした。でも、クビ差で差し切っていたみたいで…」

 その時の目黒さんの思いや心理状態を、私がここで安易に表現してしまうのは、ちょっと勿体ないような、畏れ多いような気がしてくる。「これまで長かったですね。家業に従事してから40年近くになりますが、中央のG1優勝は初めてのことでしたから」と感慨深げに目黒さんが語る。まして、昨今のG1は日高の中小牧場の生産馬が苦戦を強いられるのがこのところの傾向である。苦戦どころか、その前に出走することすら難しくなってきている。そんな中にあっての今回のモズカッチャンのG1制覇は、日高の多くの中小牧場に大きな希望と励みになったものと思われる。

 目黒牧場は、日高町豊郷にあり、繁殖牝馬13頭を管理する生産牧場である。当主の忠法さんと夫人、従業員とパートの4人で営む中規模牧場だ。子息は現在、同じ日高町内で装蹄師として開業しており、実家の生産馬の脚元も管理する。また、目黒さんは4年前に、同じ日高町内で育成牧場(ステーブル・キズナ)を立ちあげており、モズカッチャンはその第二期生として、育成にも携わった。

目黒牧場

目黒牧場の繁殖牝馬たち

「育成の方は、私の甥が岩手競馬で騎乗していた経験があり、そこを任せてやってもらっています」。中規模ながら、目黒牧場は生産から育成まで一貫体制で馬を送り出すシステムが出来上がっているのである。

「私の牧場は、長い間、ずっと地方競馬主体でして、生産馬の多くが地方に行っておりました。だから、今のように中央で馬が走り、勝つなんていうのは、本当にここ最近のことなんですよ」と目黒さん。私事ながら、今を去る20年前に一度だけ取材でお邪魔したことがあるが、その時のテツノジョージという馬も確かに地方所属馬であった。テツノジョージは、1993年生まれで、2歳時にJRAの「きんもくせい特別」(新潟競馬場)に遠征し優勝。岩手所属馬として初のJRA勝利馬となった。その後、水沢で南部駒賞も制したオサイチジョージの牡馬で、主戦は菅原勲騎手(現調教師)であった。

「あの時のこと、覚えていますよ」と目黒さん。お互い20年も経つとそれなりに老化も進んだ感じだが、いたずらに馬齢を重ねただけの私と違い、目黒さんの方は着々と牧場を整備し、地道に発展を遂げてきた印象が強い。

 牧場はひじょうに良く整備されている。そして、敷地の東側に広々としたなだらかな傾斜を持つ放牧地があり、繁殖牝馬の運動量も十分に確保されている。

目黒牧場

ひじょうに良く整備されている目黒牧場

「できるだけ長い期間、夜間放牧をするようにしています。今年も11月中旬まで夜間放牧でした」。ざっと見渡したところ、一画10ヘクタール以上もありそうなくらいの面積に、離乳の終わった繁殖牝馬たちが放牧されていた。その中に、モズカッチャンの母サイトディーラーもいた。今年はグランプリボスの仔を生んでおり、お腹にも同じくグランプリボスの仔を宿している。「出来が良いので、もう一度交配しました」と目黒さん。

目黒牧場

サイトディーラーと目黒忠法さん

 モズカッチャンも、当歳時は骨太の、しっかりした体型の馬だったという。「でも、馬だけは本当に何年やっても分からないことだらけですね」と目黒さんは言う。

 昨年、目黒さんの父・昇さんが享年94歳で亡くなった。「この牧場を創業したのが父で、モズカッチャンの活躍は父があの世から背中を押してくれているのではないか、といろいろな方に言われました」

 もちろん科学的根拠がないとはいえ、生産地ではしばしばこの手のエピソードが聞かれる。牧場を廃業した途端に馬が走り出したという話も多いし、当主が亡くなった直後に生産馬が重賞を勝ったというエピソードもこれまでずいぶん耳にしてきた。

 だが、モズカッチャンの場合は、牧場の基礎的な部分がまずしっかりあってこそ、初めてG1に手が届いたのだろう。隅々まで綺麗に整備され、しっかりと目の行き届いた牧場の外観を見せてもらいながら強くそう感じた。

 モズライジンに続き、今回のモズカッチャンの活躍で、一気に目黒牧場はこの地区の中の注目株になった。モズカッチャンの次走は未定だが、来春にはドバイ遠征の可能性も取り沙汰されているらしい。「どうされるんですか?」と尋ねると「遠いですからね。それに出産シーズンが始まっているでしょ?簡単に行けないですもんね」と目黒さんはやや消極的な反応だが、もしドバイ遠征が実現した暁にはぜひ応援に行かれることをお勧めしたいと思う。これこそ、生産者冥利に尽きるという気がするからである。

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岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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